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メンタルヘルス通信
46号 「和解力 その2」
<和解力 その2>
1月15日、薬害C型肝炎訴訟の原告・弁護団と国側との和解合意が成立した。原告・弁護団にしてみれば5年余を経ての和解合意は長い年月で あった。過去最大規模の薬害事件だっただけに、全国原告団代表の山口美智子さんは、ホッとした表情で「やっと頂上に立てた」と表現した。
この合意書で、国側は薬害被害の責任を認め謝罪し再発防止を誓った。救済の対象は後天性疾患でフィブリノゲンか第9因子製剤を投与された人と母子感染者である。しかし感染者は投与事実の証明が必要であり、医療記録やそれと同等の証明に基づいて判断され、不明な点や争いがある場合は裁判所が それを行い、当事者もそれを尊重することとした。この結果、原告側はひとまず安心できたが、実際にウィルスに汚染された血液製剤を投与されていながら、カルテなどの医療記録が消失し原告側に加われなかった患者たちもいる。
「C型肝炎患者21世紀の会」代表の尾上悦子さんもその一人である。彼女は、「私たちを置き去りにしないで!」と訴えこの会を結成した。感染者は約1万人に上るのに、投与された証明力を持つ原告はたった207人、それ以外の大多数の患者はどうなるのか、尾上さんも証拠が確定されず原告になれなかった一人なのである。
原告弁護団と法務省の話し合いでは、医師による証言や手術記録、母子手帳などから総合的に判断できる場合は、薬害被害者と認める方針が決定されたが、カルテなどがなく、医師の証言も得られない患者は救済対象から外される可能性が高い。
原告以外の被害者が救済法によって給付金を受けるには国と製薬会社を相手に訴訟を起こすしかない。福田首相は昨年12月末「全員一律救済」を表明したが、今後この問題は大きな課題を残すことになった。
このように団体同士の和解や、国が関与する和解は、証明の仕方、救済の方法、給付金などの条件をめぐって難航することが多い。これが個人対個人の場合はもっとシンプルで話し合いや争った後に慰謝料や示談金を払って済むことが少なくない。
最近では、「裁判外紛争処理」つまり訴訟以外の方法による民事紛争の解決手段の重要性が高まっている。これはADR(alternative dispute resolution)と呼ばれ、民事訴訟が本来の紛争解決機能を十分に発揮しない事や、全ての紛争が必ずしも裁判という形式になじまない事もあって、裁判外で紛争処理が行われることである。別名「代替的紛争解決」とも言われている。広義には、民事調停や家事調停などの裁判所における訴訟以外の紛争処理であったり、公害や環境問題等調整委員会、医療事故の調査委員会などの裁判所外の公的な紛争処理機関によるものを含んでいる。
身近では交通事故紛争処理センターのような私的機関から個々人の自由な示談交渉まで様々である。2004年には「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」が制定され2007年から施行されている。
しかしどんな形態の和解にしろ、大切なことは双方がよく話し合い、気持ちを交換し、理解し合うことである。そうでなければどんな和解もお互いに不満や不信感を残してしまうからである。
今後ADRが広まれば広まるほど形式的なことが排除され、実質的な中味が重要視される。そうなると話し合いの仕方や理解する力、相手の立場に立った感情の移入などが求められることになるであろう。
和解が困難なのは双方が利害や損害をめぐって話し合いのテーブルについてしまうため、自分の身を守ることだけを考え、相手の立場に立つことができないのである。称賛に値する和解には、お互いの立場を理解できるような話し合いの方法やスキルが必要となってくる。そこには専門的、第三者の立場からカウンセラーの役割も求められる。
家族療法でよく用いられる「リフレクティング」つまり創造的な相互の反響のさせ合い、ゲシュタルト療法の「エンプティチェア」「トップドッグとアンダードッグ」による立場の交換、サイコドラマの「ダブル」や「黒衣役」による気づきの援助などがそれである。
人間関係が希薄になりコミットメントする雰囲気が失われた時代、そしてそれに伴い和解力が喪失してきた今日では、カウンセラーによる人間関係の活性化や修復の援助技術が増々要請されそうである。