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メンタルヘルス通信

49号 「和解力 その5」

2015年10月27日
メンタルヘルス通信

 

<和解力 その5>

Sさんと警察官の和解が成立し、周囲の人達は、ホッと一息を入れることができた。もちろん、和解の調整に当った筆者も安堵感を隠しきれなかった。ところが、それから2週間もたたないうちに、Sさんが再び「むしゃくしゃする」と言ってイライラし始めたのである。

彼の話に耳を傾けると、自分を精神病院に入院させた精神科医に腹が立つというのである。「あのときの診断は、誤診であった。精神科医が自分の誤診について謝罪してくれなかったら、私の人生は傷付いたままだ」そう言ってきかないのである。

そこで苦悩した結果、再びSさんの母親が、精神科医に連絡を取り、Sさんの自宅に来てもらうことになった。それはほとんど不可能に近いほど困難なことであったが、何故かSさんの治療に当たった2人の精神科医が来てくれたのである。そしてもちろん、Sさんの母親は、筆者に話し合いの調整役を依頼してきた。成り行き上、筆者は、そのことから逃げることはできなかった。

2人の精神科医は、Y医師(上司)と、W医師(部下)であったが、部下のW医師は、この話し合い自体に、とても不快そうな態度であった。しかし、上司に諭されたのか、嫌々来てくれたのである。

さっそくセッションが始まった。

CO「これから2時間ほど話し合いをしたいと思いますが、2時間後、今日はよかったというような話し合いをしたいと思うのですが、それにはどんな話し合いをしたらよいのでしょう。Sさん何かありますか?」

S「本音で話し合えればいいじゃないですか。素直に格好つけずに話し合えれば・・・・・」

CO「なるほど、Y先生はいかがですか?」

Y「それで結構です」

CO「W先生はどうですか?」

W(黙ってうなずく)

CO「お母さんは、話し合いに参加しないで聞いてて下さい。話し合いの中で、これは自分の中で為になるという内容については、是非拾って下さい。しかし、このことはあんまり有益ではないというような話であればそれは捨てて下さって結構です。後でコメントもいただきたいと思います。私は、今日お母さんから進行役を頼まれた東京メンタルヘルス・アカデミーのカウンセラーの武藤といいます。上手く進行役ができるかどうか心配ですが、よろしくお願いします。それではSさんから話をしていただきたいと思います。SさんはどうしてY先生とW先生に来てもらいたかったんですか?」

S「だって、私が大学病院の精神科に入院させられたのは、警察官のAさんが無理矢理病院に連れて行ったからなんです。ロクに話もきかず、自分の状態も分からないくせに連れて行かれたんです。でもそのことについて、Aさんは私に謝ってくれました。だからAさんのことは許せました。でも、私を無理矢理精神科に入院させたこの2人の先生もおかしい。だって、何一つ診断しないで保護室に入れたんだよ。あれはおかしいでしょ。訳が解らないまま連れて行かれて無理矢理入れられた!どうしたって入れた精神科医には責任があるんじゃないですか!」

CO「先生方、今の話しを聞かれてどのように思われますか?」

W「だってあの時は、あなたが暴れたし、周りの人達に暴力を振るったんだから、保護室に入れるのが一番いいと思ったんですよ」

S「何で暴力を振るったかわかる?俺が何にもしないのに、みんなが俺のことを押さえつけるからだよ。それに何一つ理由も聞きもせず、入院させようとするから」

W「しばらく落ち着くまで保護室に入ってもらうのが一番いいと思ったから」

S「それから、Y先生よ、あんたいきなり俺に注射打ったろ!」

Y「打ちました。睡眠薬を打たしてもらいました」

S「何でそんな権利あるんだよ!」

Y「かなり緊張していた雰囲気もあったし、イライラしていた感じもあったので、少し休んでもらうのが一番いいかなと思って医者として睡眠薬を打たしてもらいました」

S「診断もしないでいきなりか!」

Y「後で落ち着いてから、ゆっくり話し合いをすればいいと思ったからです」

S「ひどいもんだ。これが精神科医療の実体かよ」

こんなやり取りの応酬に、果たして収拾がつくのか筆者は心の中で不安と焦りを感じ始めていた。


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