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メンタルヘルス通信

合理的配慮 ~改正障害者差別解消法施行~

2024年6月1日
No.108
メンタルヘルス通信 No.108

 

合理的配慮 ~改正障害者差別解消法施行~

 4月1日より、障害を理由に「不当な差別的取り扱い」を禁止する障害者差別解消法の改正法が施行となりました。この改正により、国や自治体に限らず、民間も含めた全ての事業者に対して、障害のある人への合理的配慮の提供が義務づけられました。

障害のある人

 ここでいう障害のある人とは、障害者手帳の有無に関わらず、何らかの障害や病気があり、社会に残る障壁によって暮らしにくさを感じているすべての人々です。

 法改正により、事業者には、障害のある人が日々直面する、社会の中にある障壁を取り除くための対応がさらに求められています。

合理的配慮とは?

 合理的配慮とは、障害者が健常者と実質的に同じ権利を享受するために、適切な調整や変更を行うことです。なお、国連が2006年に定めた障害者の権利条約では、配慮の否定を差別に含めると規定されています。

 もう少し具体的にいうと、障害のある人が日常生活や社会生活を送る上での困難さを、周囲からのサポートや環境調整によって軽減するための配慮のことです。これにより、障害のある人が社会的なバリアによる制限を受けずに、より平等な機会を得られるようにすることが目的にほかなりません。

特別待遇や、過重な負担ではなく

 よって合理的配慮は、障害者への特別な優遇ではありません。健常者の人たちであれば普通に得られているサービスを、障害者の人たちも得られるようにするための調整や変更をしていくということなのです。

 この合理的配慮の範囲は、事業の本質的な変更には及ばず、過重な負担にならない範囲で提供されるべきものとされています。例えば、車椅子ユーザーが飲食店で着席を希望した場合、机に備え付けの椅子を片付けてスペースを確保するなどの対応が考えられます。一方で食事介助を求められた場合、食事介助の事業までは行っていないとなれば、そのことを説明し、食事介助についてはお断りせざるを得ないでしょう。

建設的な対話を続けていく

 ここでは、事業者と障害のある人が対話を重ね、解決策を一緒に検討していくことが何よりも重要です。

 例えば、障害者は、自分が困っていることを遠慮なく穏やかに相手に伝える。事業者は、対応が可能なことと、一方では対応が難しいこととを、分かりやすく説明する。そうして、障害者の障壁をなくしていこうと、共に力を合わせていく。このプロセスを大切にし、投げ出さずに対話を続けていくこと、合意を形成していくことが大変重要です。

 一方でNGとなりうるのは、なんの検討もせずに「前例がありません」などと頭ごなしに拒否してしまうこと。また、「特別扱いはできません」などと言い、門戸を閉ざしてしまうことです。

合理的配慮 ~改正障害者差別解消法施行~

罰則は無いものの

 合理的配慮の提供義務違反に罰則はありませんが、違反行為を繰り返した場合など、国から報告を求められたり、指導や勧告を受けたりする可能性があります。

 もし、合理的配慮がなされていないとなれば、悪評が広まり、会社の信用失墜や業績悪化につながってしまうことも考えられます。

誰もが自然とできるように

 さらに筆者は、いま社会に求められているのは、障害のある人への配慮が特別なものではなくなっていくことと考えています。

 発達障害で聴覚過敏の症状があり、特に機械音が苦手な人がいたら、機械音が比較的しないような事務所の席を確保したり、印刷機など大きな機械音が出る作業はできるかぎりその人が不在の時間で行ったり、不在の時間がなければ印刷機を使う前にその人に声をかけて一時的に別の場所に移動してもらったり、etc.

 改正法では、このようなことが合理的配慮とされてはいるけれども、ゆくゆくはこのようなことがごくごく普通の行いとして、誰もが自然とできる常識のようになっていくことを目指す。

合理的配慮 ~改正障害者差別解消法施行~

「サウイフモノニ ワタシハナリタイ」

 宮沢賢治の「雨ニモマケズ」という有名な遺作メモがあります。亡くなられた後に発見されたものですが、このメモは最後が「サウイフモノニ ワタシハナリタイ(そういう者に 私はなりたい)」という言葉で結ばれており、宮澤賢治の生きていく姿がありありと映し出されているメモです。そのメモの後半部分には下記の言葉が綴られています。注

  • 東に病気の子供あれば 行って看病してやり
  • 西に疲れた母あれば 行ってその稲の束を負い
  • 南に死にそうな人あれば 行ってこわがらなくてもいいと言い
  • 北に喧嘩や訴訟があれば つまらないからやめろと言い

 おそらく、合理的配慮という言葉を使わなくても、障害者への配慮が自然と行われている社会は、宮澤賢治が「ワタシハナリタイ」と言った、上記のような人々がありふれた社会となることでしょう。

注:原文は漢字とカタカナで書かれていますが、現代の我々にも読みやすいように、カタカナをひらがなと漢字に変えています。

 


執筆者:新行内勝善
東京メンタルヘルス株式会社 法人事業部長代理/リワークサポートセンター長/メンタルヘルス通信編集長
NPO法人 東京メンタルヘルス・スクエア 副理事長/カウンセリングセンター長
精神保健福祉士,公認心理師,ハラスメント防止コンサルタント,SNSカウンセラー,森林セラピスト

【主な著書】

  • 鳥飼,新行内共編著『自殺対策の新たな取り組み SNS相談の実際と法律問題』誠信書房,2024
  • 新行内『対面ではつながることが難しい人に寄り添うオンライン(SNS)相談』月刊福祉,2022年2月号特集
  • 新行内『今こそ知ろう!SNS相談』月刊学校教育相談(ほんの森出版)2020年4月~2021年3月連載
  • 分担執筆『ここがコツ!実践カウンセリングのエッセンス』日本文化科学社,2009


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