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メンタルヘルス通信

45号 「和解力 その1」

2015年10月27日
メンタルヘルス通信

 

<和解力 その1>

今、日本は、人間関係の希薄や、人付き合いの悪さが言われるようになって久しい。

例えば、今学校では、次のようなことが起こっている。A君とB君が、学校の廊下で取っ組み合いの喧嘩をしている。でも20年ほど前は、A君やB君の側を通りかかったC君やD君はそれに介入する姿があったと、学校長たちは口々に言う。しかし、今の学校では、そういう風景はほとんど見られなくなったという。側を通りかかったC君やD君は、見て見ぬ振りをしたり、2人でペチャクチャ話をしながら、そこを通り過ぎていくという。これが「解離する社会」である。

解離は、人がいるのに交わらない。何かトラブっているのに知らん振り。まるで何事もないかのように振る舞うことである。こうなるとA君とB君は、集団の中の孤独、2人は極度に緊張し、やるかやられるかといった状態になるという。このような事態は学校だけではない。職場や家庭、地域社会でも見られる現象である。

そんなことから今年は、コミュニケーションをはかったり、人付き合いを良くすることを心がけたい。その中でも「和解力」の実現に目標を置きたい。和解力というのは、一言で言えば、喧嘩して仲直りということである。

6ヵ国協議での和解。拉致問題での和解。薬害肝炎訴訟での和解。犯罪被害者と加害者、医療訴訟、横綱朝青龍と日本大相撲協会、夫婦、恋人同士、親子、上司と部下、同僚同士、そして自分の中の葛藤する小人同士の和解など、和解する対象は様々である。しかしどんな和解であっても、和解は面倒である。

できたら放っておきたい、知らん振りしていたい、近付きたくない。憤りを感じる、もう見たくもないし会いたくもない、死んで欲しい、会社を辞めたい、できたら異動したい、最後はこんな思いになってしまう。でも苦しい。葛藤もする。後悔だってしてしまう。これが対人関係の悩みである。

2001年6月、千葉県にNPO法人「被害者加害者対話の会運営センター」というのが発足した。ここは、文字通り犯罪被害者と加害者の和解を 支援するセンターである。

ここの理事長を務める山田由紀子弁護士は次のように語る「被害者と加害者は、話をせず、意思の疎通を取らない。しかしそのことで更に不信感を募らせるケースが多い」このセンターでは、扱う事件は少年犯罪に限っている。その大きな目的は、「被害者の被害回復」と「加害者の更正・再犯防止」である。

このセンターでは、対話の会を積極的に勧めている。司会を務める進行役は、事前に双方に会い入念な準備をする。ほとんどが無給の市民ボランティアだという。進行役は両者と会い、できるだけ事件の成り行きについて情報を集める。その後両者の気持ちを聞き出し、理解することに努める。

だいたいは被害者が自分の思いを語り、それをじっと加害者が聞いていることが多い。ひとしきり話し合った後で、被害者が言う。「これ以上話すことはありません。僕はあの事件の前後の記憶が一切ないんです。

事件がどのように起こったのかそれさえも覚えていない。だから、その時のことを教えてもらえませんか」すると加害者は、「つい、カッとなってやってしまいました。まさかこんな事態になるなんて思ってもいませんでした。本当に申し訳ありませんでした」しかし被害者の両親は興奮して、取り付く島もない。被害者の両親が、激しい怒りを加害者にぶつける。加害者はそれを黙って受け止める。まさにそこは修羅場と化す。

そしてその後に決まって長い沈黙が訪れる。両者はお互いに口をつぐんでしまう。ある程度時間が経ったところで、司会者が和解金について話を持ち出す。ここでは金額については、進行役は一切口を挟まない。あくまでも両者が納得して決めることが原則である。「金額は被害者が提示した500万で結構です。でも一度にそんなお金は払えません。最初に100万を支払わせてもらい、後は分割というわけにはいきませんでしょうか。できれば、息子に働かせ、返せたらと思っています」被害者が黙ってうなずく。

そして最後にこう付け加えた「この事件に遭って僕の人生は粉々にされた。どれだけあなた方を恨んだことか。でも、いつまでもそんなことばかり言ってはいられない。僕は1日も早く事件のことを忘れたかった。でもなかなか忘れることはできなかった。だから僕は、この会に救いを求めた。今日は来てよかったと思います」このようにして、和解が成立するのである。

このような和解方法は、アメリカなどで行われている「修復的司法」という手法である。最近、日本にも持ち込まれているが、実際に対峙した両者の心の中には、反目や対立、せめぎ合い、沈黙、葛藤、後悔などの気持ちが生まれる。それを上手に取り仕切っていくのが司会の役割である。


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