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メンタルヘルス通信

2023年4月4日

99号 「近くの知り合いも、遠くの他人も」

本号特集「近くの知り合いも、遠くの他人も」<メンタルヘルス通信 No.99>

今号のメンタルヘルス通信は、コロナの収束が見えてきている現時点で、
コロナについて少し振返ってみました。

振り返ると、マスクの影響もありますが、
メンタルヘルス上で特に大きな課題としては自殺者数の特徴的な増加があります。

このことは非常に大きな課題であり、何かひとつで乗り越えられるものではありませんが、
重要なこととして「死にたい」と打ち明けられる関係性について触れました。

精神科医の松本俊彦先生の言葉からですが、
このことは、AIが普及するにつれますます重要度を増すものと思われる点です。

ぜひご一読ください!

メンタルヘルス通信は、イントラネットへの掲載やプリントアウトしての配布など、
従業員の皆様へのメンタルヘルス啓発活動などにご活用ください。

【PDF版】
99本号特集「近くの知り合いも、遠くの他人も」(PDF)

【テキスト版】
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NO.99 近くの知り合いも、遠くの他人も
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<<コロナ、3 年で収束となるか>>

政府は、新型コロナウイルスの感染法上の分類を5月8日から、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げることを決めました。
コロナは終わりとみていいのでしょうか。

振り返ってみると、2020 年 2 月 27 日、当時の 安倍晋三首相は、全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請する考えを表明し、3月2日から臨時休校となりました。

それから3年を経て、学校現場では4月1日からマスクの着用が原則、不要となるなど、感染対策の考え方が変わりました。

<<マスクの影響>>

マスクの影響は、日本ではおそらく諸外国以上 に強く、「マスク警察」や「顔パンツ*」という社会現象や言葉までも生まれたほどです。

50才の大人に占めるこの3年間は約6%ですが、現在10才の子どものこの3年間は30%にもなります。
実に、人生の約3分の1をマスク着用で過ごしたこととなるわけですが、今後の対人コミュニケーションにおいてその影響は現れてくるのでしょうか。

*マスクの着用が習慣化したことにより、マスクで顔を隠すのが当たり前になっていることから生まれた。マスクは顔のパンツ、という意味

<<コロナ下で増えた自殺者数>>

マスクはまさにコロナを大きく象徴していると思われますが、子どもたちに目を向けると、さらに憂慮されるのは自殺者数です。

文科省のまとめでは、昨年に自殺した小中高生は512人で、過去最多だったことが分かっています。
これまででは2020年の499人が最多でした。
社会の苦境のしわ寄せは弱いところに現れることがありますが、コロナ下で自殺者数が増えてしまったのは、特に若年女性と子どもたちでした。

<<3月・4月・5月は自殺者が多い>>

3月は自殺対策強化月間でした。
警察庁の速報値によると、昨年 2022 年の月別自殺者数では、5月が最も多く、次に多いのは3月でした。例年のおよその傾向としては3月・4月・5月が多くなってしまっています。

年度末から年度はじ
めの大きな環境変化の
影響によるストレス増も考えられます。
また、この時期は、桜を中心に
色とりどりの花が咲き出すことから花時(はなどき)とも呼ばれますが、花粉症もあれば、気象病としてはうつ病が現れやすくなる傾向も見られます。
このため、心身の健 康管理にはいつも以上に気をつけたい時期です。

<<「死にたい」と打ち明けられる関係性>>

自殺予防において重要なことのひとつをお伝えしたいと思います。
『自傷・自殺する子どもたち』の著者である精神科医の松本俊彦先生(国立精神・ 神経医療研究センター薬物依存研究部部長)が言った言葉です。

自殺予防とは、安心して『死にたい』と打 ち明けられる関係性があってこそ実現できる もの。 (精神科医 松本俊彦)

自殺の対人関係理論において自殺のリスクを高 める要因としてあげられているのは大きく2つあ ります。ひとつは「負担感の知覚」であり、もう ひとつは「所属感の減弱」です。負担感の知覚と は、「自分が回りのお荷物になってしまっている」 と思ってしまったり、「自分なんていない方がいいんだ」と思ってしまったりする状態です。一方、所属感の減弱とは、孤独孤立の状態です。

「負担感の知覚」も「所属感の減弱」も、松本 俊彦先生のいう「安心して『死にたい』と打ち明 けられる関係性」がある状態の真逆と言っていい でしょう。

ただ、実際には、打ちあけられる関係性が構築 されていることは少ないのではないでしょうか。
そんなときは近くの知り合いよりも、遠くの他人 を利用しましょう。
会社や学校、あるいは自治体 のこころの相談窓口を是非利用してみてください。

新行内勝善(精神保健福祉士、公認心理師)


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