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メンタルヘルス通信

2019年11月20日

92号 「子どもの自殺を防ぐ!SOSの出し方教育」

本号特集「子どもの自殺を防ぐ!SOSの出し方教育」<メンタルヘルス通信 No.92>

今回のメンタルヘルス通信は、子どもたちの自殺を予防するための最重要施策と言える、
「SOSの出し方教育」について取り上げます。その概要をご紹介するとともに、
取組効果を上げるためのポイントもお伝えしていますので、ぜひご一読ください!

メンタルヘルス通信は、イントラネットへの掲載やプリントアウトしての配布など、
従業員の皆様へのメンタルヘルス啓発活動などにご活用ください。

【PDF版】
メンタルヘルス通信_第92号(PDF)

【テキスト版】
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NO.92 SNS相談(チャット相談)のはじまり!
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子どもの自殺を防ぐ!SOSの出し方教育

いま、学校においては、「SOS の出し方教育」の重要度が増してきています。
背景には、日本全体での自殺者数は減っているものの、子どもたちの死因に占める自殺率が他国と比べて非常に高く、子ども・若者の死因第一位が自殺という悲しい現実があります。
これは何としてもどうにかしなければなりません。

文科省と厚労省は、昨年1月に「児童生徒の自殺予防に向けた困難な事態、強い心理的負担を受けた場合などにおける対処の仕方を身につける等のための教育の推進について」という通知を各教育委員会に出しました。現在、この通知が元となり「SOSの出し方教育」が推進されているわけですが、今やSOSの出し方教育は、子どもたちの自殺予防のための最重要施策です。

SOS の出し方教育の骨子

「SOSの出し方教育」の内容の詳細については、上記の通知や同年8月に出された教材例の通知を参照していただければと思います。
実は、この自殺予防教育はさらにさかのぼると、文科省が平成26年7月に出した手引き「子供に伝えたい自殺予防(学校における自殺予防教育導入の手引)」がベースとなっています。
自殺予防教育のプ ログラムと目標の骨子は下記の通りです。

【自殺予防教育のプログラムと目標の骨子】

1 自殺の深刻な実態を知る(中学生のみ)
2 心の危機のサインを理解する
3 心の危機に陥った自分や友人への関わり方を学ぶ
4 地域の援助機関を知る

この骨子を元に作られた「SOS の出し方教育」には、3つの大きな柱があります。

【「SOS の出し方教育」の3つの柱】
I. 自分の心の不調や危機に早く気づき、気づいたら適切にセルフケアができるようになる
II. セルフケアのひとつとして、相談すること=SOSを出すことができるようになる
III. 周囲にヘルプを要する人がいたら、声をかけたり大人につなぐなど適切な一次対応ができるようになる

さらに効果を上げるために

さて、こういった取り組みを実り多きものとしていくため、さらに取り組んでいくべきであると筆者が考えているポイントが2つあります。
まず第一に、「SOS の出しにくさ」について理解を深めていく必要があると考えています。
なぜ出しにくいのか、そのメカニズムを理解し、課題を 克服していくことで、SOSを出せるようになると考えているからです。

心理学ではすでに「help seeking behavior(援助希求行動)」に関する研究があり、SOSの出しにくさ については、援助希求コストとして取りまとめられています。この理論を踏まえての教育でさらに効果をあげることができると考えています。

第二に、SOS を出すための補助ツールも必要、ということがあります。なぜなら、SOS の出し方教育を受けても実際には、全員がすぐにSOSを出せるようにはならないだろう、と考えているからです。
そもそも日本人には他人に負担を強いるような意思表示は遠慮する文化があります。そこでSOSを出すた めの補助ツールが必要であると思われます。

例えばですが、公共機関や病院などの トイレには「気分が悪くなったとき、助けを必要とするときは、このブザーを押してください」などといったボタンがついています。これと同じように、子どもたちがいつでもSOSを発信できるようなボタンが手の届きやすいところにあると、SOSを 出すことをさらに促進できると考えています。
そしてこのツールの先には、すぐに駆けつけてくれる専門の支援スタッフがいることも重要です。
専門の支援スタッフとは、現在文科省が進めているチーム学校の中での専門職として位置付けられている スクールカウンセラーであり、スクールソーシャルワーカーです。
この支援スタッフの存 在は、今後ますます重 要となってくるでしょう。

新行内勝善(精神保健福祉士、公認心理師)


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