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メンタルヘルス通信
心の健康を保つ“ファン・デューティ・バランス”という新視点 〜頑張りすぎず、ゆるみすぎず〜


心の健康を保つ“ファン・デューティ・バランス”という新視点
〜頑張りすぎず、ゆるみすぎず〜
「もっと頑張らなきゃ」と力を入れすぎたり、「もう何もしたくない」と脱力したり…。そんなアップダウンを感じることはありませんか?
今回は、心身の健康を保つヒントをお伝えします。
ほどよい緊張感の大切さ
臨床心理士として子どもたちの知能・発達検査を実施することが度々あります。今まで様々な子どもたちに出会ってきましたが、特に印象深かったのがチック症状のある子どもです。
その子どもは、緊張や不安がとても強く、検査中に肩をピクピクと無意識に動かす様子がありました。普段の学校生活ではリラックスしている時にもピクピクするという訴えでしたが、緊張しすぎても、リラックスしすぎても、心身の不調が出るのだと実感したエピソードでした。
これは、特定の子どもだけでなく、大人にとっても同じことが言えると思います。
最近は、とある政治家が「ワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて働いて働いて働いて、働いてまいります(i)」 と発言し大きな話題となりましたが、常に仕事モードで緊張が強い状態にいると、様々な身体の不調が生じやすいとされています。一方、リラックスしすぎるとぼーっとした状態になり、ベストパフォーマンスを発揮できません。
皆さんも試験や面接の本番で緊張しすぎて頭が真っ白になったり、仕事から帰宅し、テレビの前でぼーっとしていると、疲れがドッと出てくることはないでしょうか?
緊張しすぎず、リラックスしすぎない、“ほどよい緊張感”が、心の健康にとって一番良く、仕事のパフォーマンスも上がっていきます。例えば、仕事のプロジェクトで、締め切り前にやる気スイッチが入る時などは、ほどよい緊張感で仕事が出来ている証拠かもしれません。

“ワーク・ライフ・バランス”から“ファン・デューティ・バランス”へ
では、ほどよい緊張感を保つにはどんな工夫ができるのでしょうか?
ここで、ファン・デューティ・バランスという考え方を紹介したいと思います。これは、精神科医・医学博士の本田秀夫先生が提唱した考え方です。本田先生は、以下のように考え方を述べています。
「「ファン」は楽しいこと、やりたいこと。「デューティ」は義務、やるべきことです。
仕事と生活のバランスではなく、「やりたいこと」と「やるべきこと」のバランスをとるという考え方です。「やりたいこと」をやる時間を最大限に優先し、やるべきことが増えすぎないように気をつけるのです」」
「まずは「やりたいこと」をやる。「やるべきこと」を増やしすぎて「やりたいこと」
を削ることは、極力避ける。「睡眠」の時間もなるべく確保する(ii)」
「やるべきこと」が多すぎると、脳が“常に戦闘モード”のような状態になり、身体の不調が出やすくなります。一方、「やりたいこと」を少しでも確保することによって、適度に穏やかに なり、仕事のパフォーマンスが最大限に発揮され、心の健康にもつながっていきます。
このため、仕事が忙しかったり、苦手な業務や対人関係に悩んでいる人は、プライベートの時間でいかに「やりたいこと」を率先して出来ているか振り返ることも大事かもしれません。
“Duty(やるべきこと)”が多い人の対処法
「Fun(やりたいこと)を確保した方がいいと言っても、自分が何をしたらいいのか分からない!」という人もいるかもしれません。
このように、仕事中心でバリバリ働いている人や、真面目な性格な人ほど、息抜きしたり、ぼーっと過ごすことに居心地の悪さを感じるかもしれません。加えて、自分自身がどれほどストレスを抱えていて、身体が緊張しているか、自覚しづらい人もいます。
また、自分の好きなこと・夢中になれることがなかなか見つからない人もいます。そんな時は、“これをしていて苦にならない”、あるいは、“これがないと調子を崩しやすい”といった自分なりの回復パターンを見つけると良いでしょう。例えばですが,以下の例のように工夫して,自分なりの回復パターンを見出した方がいました。
<1日の睡眠時間が7時間を下回ると、メンタルの不調につながりやすい場合の工夫例>
- 普段から日々の睡眠時間を記録し、睡眠時間を客観的に把握する。
- 仕事量を減らす、あるいは8割程度の仕事のクオリティでOKとして、早めに切り上げて睡眠時間を多く確保する。

一方、「なんだか最近やらなきゃいけないことに手がつかない…」という方は、Fun(やりたいこと)が多い人かもしれません。対処法として以下の例があります。
- 料理や掃除など手先を刺激する作業を取り入れる。
- ストレッチや深呼吸など、身体を動かす作業を取り入れる。
これだけでも、適度に脳のスイッチ が入り、パフォーマンスが高まります。仕事の合間に身体を動かすことで、効率アップに繋がるでしょう。
年末の忙しい時期こそ、自分にとっての“Fun”を少しだけ思い出してみましょう。心と体のバランスを整えながら、穏やかに冬を迎えられるといいですね。
- 2025年10月4日,自民党総裁選で新総裁に選出された際の高市早苗氏の発言より。
- 引用元:本田秀夫(2021),「日中のストレスのせいで夜中のスマホがやめられない!? 発達障害専門の精神科医が教える、生きるのがラクになる考え方とは」,ダイヤモンドオンライン https://diamond.jp/articles/-/289431
執筆者:谷 里子(臨床心理士、公認心理師)
東京メンタルヘルス カウンセラー
大正大学人間学研究科 福祉・臨床心理学専攻 博士後期課程 単位取得後満期退学。
これまで教育現場や児童精神科にて心理的アセスメントに尽力してきました。子どもの持っている能力を見極め、回復力を見いだす支援・研究に日々取り組んでいます。