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メンタルヘルス通信

柑橘の香りからのメッセージ ~アロマテラピーから紐解く香りの使い分けのヒント~

2024年9月24日
No.111
メンタルヘルス通信 No.111

 

 今年の夏はパリ・オリンピック・パラリンピックで心熱く過ごされた方も多かったのではないでしょうか。

 近年では、スポーツの現場でもアスリート達の間でもアロマテラピー(*)が徐々に認知されるようになり、試合や練習後の疲労回復のためにアロマトリートメントを行ったり、試合前の集中力を高めるための芳香浴やセルフケアとしてアロマテラピーを取り入れる等、その活用法は広く多岐に渡っています。

 今号では比較的皆さまに馴染みやすく手に取っていただきやすい香りのひとつとして「柑橘系」の香りについて、アロマテラピーをはじめ植生などの観点からも紐解いてみたいと思います。

柑橘の香りからのメッセージ

柑橘とは?その種類や分類

 柑橘と聞いて、皆さまはどんな香りやイメージが浮かびますか。

 フレッシュで爽やかなイメージ、たわわに実った果実のエネルギッシュなイメージ、冬のこたつを囲んで食べるみかんなどの温かくどこか懐かしいイメージ。

 人によりその香りやイメージは様々なものがあると思います。

  一般に柑橘類とは、植物分類学上ではミカン科、ミカン亜科のカンキツ属、キンカン属、カラタチ属およびクリメニアを含む果樹類の総称であるとされ、これらの植物は、アジア大陸東南部やその周辺を含む島々に野生していますが、東部ヒマラヤ、インドのアッサム、中国の長江上流が柑橘類の重要な種(しゅ)の原生地とみられています。

柑橘類に含まれる芳香成分。ベルガモットの香りのバランス。

 多くの柑橘類精油には、シトラス香調のリモネンという成分が含まれていますが、同じ柑橘であってもアールグレイ紅茶の香りづけに使われるベルガモットには、リモネンの他にも酢酸リナリル、リナロールなど神経を鎮静する働きのある成分も含まれており、フローラル感などもほのかに感じることができます。

柑橘類に含まれる芳香成分

味覚からも感じられる柑橘の香りの違い、甘味柑橘と酸味柑橘

 さらに食品化学上からは、温州ミカン、オレンジ、ポンカン、ブンタンなど酸度より糖度の高い甘みのある柑橘を「甘味柑橘」、ユズ、スダチ、カボス、レモン、ライムのように糖度よりも酸味が数倍高い柑橘は「酸味柑橘」と分類されています。

よりよい眠りをサポートする柑橘の香りの力、オレンジ・スイート

 柑橘の香りが質の良い睡眠をもたらす可能性が示された興味深い実験があります。

 眠りが浅いといわれる要介護の高齢者女性を対象に、就寝前にオレンジ・スイートの香りを嗅いでもらい、就寝中も香りを加湿器で拡散させ、副交感神経活動の指標として心拍動性を測定するという実験を行ったところ、翌朝の起床後の副交感神経活動が有意に低下し、覚醒度がアップしたことが示されました。このことから、就寝前にリラックスできたことで安心して熟睡でき、すっきりとした目覚めがもたされたことが推測されています。

性別や年代を問わず受け入れられやすい香り。男性、高齢者、子ども

 最近は、男性の間でも香水を愛用する方が増えているそうですが、性別を問わず香りを楽しむということへの関心が高まっているのではないでしょうか。中でも、男性には樹木などのウッディ系の香調と並び柑橘系の香りも人気が高いそうです。

 このように柑橘系の香りは性別や年代を問わず比較的好まれやすい香りが多く、特にユズの香りは高齢者の方にも馴染みやすくハンドトリートメントや足浴などでもよく使われている香りのひとつですが、筆者も母の日に実母と義母それぞれにユズ精油を使ったハンドトリートメントをプレゼントしたところ大変好評でした。

 ワークショップなどでは子ども達にはオレンジやマンダリンなど、温かく穏やかな香りが比較的好まれる傾向があるようです。

愛媛県だけでも40種以上! 国産柑橘の多様性

 日本の柑橘類は栽培品目が多く、なかでも全国トップクラスの生産量を誇る愛媛県だけでも栽培される柑橘類は40種類以上にも及びます。

 日本国内でもイヨカン、ハッサク、スダチ、不知火、シークヮーサーなど地域特有の精油の生産者も徐々に増えてきており、海外産の柑橘系精油とはまた違う親しみやすさや懐かしさを感じるといった声もよく耳にします。

ビジネスシーンでも、リフレッシュやリラックス!

 柑橘と一口に言っても香りには個性があり、いくつかの芳香成分が複雑に絡み合ってそれぞれの柑橘独特の香りを生み出しています。
欧米人と違い、日本人には日常的に香水を使うという文化が根付きづらいとも言われていますが、アロマテラピーの場合、比較的香りが穏やかなので日常でも使いやすいかもしれません。ビジネスのシーンでもリフレッシュやリラックスを目的として、会議室や受付に香りを漂わせるという使われ方もされています。

 多様な柑橘の中から、まずは、お気に入りの柑橘、使いやすい柑橘の香りをみつけてみるのも香りに触れて楽しむことのひとつかもしれませんね。

ビジネスシーンでも、リフレッシュやリラックス!

 

(*)AEAJ(公益社団法人日本アロマ環境協会)ではアロマテラピーを「アロマテラピーは、植物から抽出した香り成分である「精油(エッセンシャルオイル)」を使って、美と健康に役立てていく自然療法です」と定義しています。

 

<<参考>>
園芸植物大事典1(小学館)

柚子をさぐる-ゆずの森よりー/沢村 正義著
Aromatopia No.169「日本産精油のはじめ方」
(以上、フレグランスジャーナル社)

「オレンジ・スイート精油がもたらす就眠前不安への生理的影響」
(アロマサイエンス研究所/AEAJ HP参照)

 

執筆者:福井 良子
 東京メンタルヘルス・カウンセラー
 産業カウンセラー、認定SNSカウンセラー、キャリアコンサルタント
 AEAJアロマテラピーインストラクター、アロマセラピスト
 メンタルヘルスにおけるアロマテラピーの心身への働きに着目しアロマテラピーインストラクター、セラピストの資格を取得。
 現在は、NPO法人東京メンタルヘルス・スクエアにてSNSカウンセラーとして相談業務に携わりながら、地域で開催されるママ向けイベントなどに出店し、アロマテラピー・ワークショップやカウンセリングを行なっています。


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