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メンタルヘルス通信

心理的リアクタンスを知って新年度を乗り切ろう!

2025年4月1日
No.118
メンタルヘルス通信 No.118

 

職場における自殺のポストベンションの実際

 新しい年度が始まり、環境が変わることで心も身体も不安定になりがちです。

 特に社会人の方は、新しいプロジェクトが始まったり、仕事の内容が変わりやすい時期です。また、そのプロジェクトを担っている上司の方々も、部下への指導に悩みがちかもしれません。

 今回はそんな悩める社会人のヒントになる概念である「心理的リアクタンス」について解説します。

心理的リアクタンスとは?

 皆さんは、親に「宿題をやりなさい!」と言われた途端、「うるさいな!今やるところだったのに!」とやる気が失せてしまい、指示に従わなかった体験はないでしょうか?

 このように、“自由が侵害されたときに、その回復を目指す動機付け”のことを「心理的リアクタンス(Psychological Reactance)」と心理学では定義されています(Brehm & Brehm‚1981)。「心理的な抵抗・反発」とも訳され、日常的に生じる自然な心の働きです。

職場における自殺のポストベンションの実際

リアクタンスを和らげる指示の出し方のコツって?

 上司など指導する立場にいる方たちは、部下のメンタルヘルス対策も気になるところでしょう。

 仕事の指示をするときは、「心理的リアクタンス」を和らげるように指示を与えることで、部下と良好な関係を維持しつつ、部下のパフォーマンスもまた上手に引き出せるでしょう。

 例えば、「提出物を持ってきなさい」と強制・指示するよりも「提出物を持ってきましょう」と提案・勧誘した方が、心理的リアクタンスが和らぎ、指示に従おうとする意欲が高まると研究で示されています(大谷・山村‚2019)。

 もちろん、仕事上ではどうしても守るべきルールは教える必要はありますが、普段のやりとりでは、なるべく強制・説得的なメッセージは控えた方がよいでしょう。

 また、提出物の締め切りも、厳しく○日までにと提示すると従業員のリアクタンスが強まり、先延ばししてしまうケースも考えられるため、なるべくゆとりを持ったスケジュール設定をしたり、従業員の進捗状況を配慮した声かけが効果的かもしれません。

あなたは心理的リアクタンスが強い人? 弱い人?

 先ほどは、上司など指示を与える側に向けた内容をお伝えしましたが、今度は指示を受ける部下の皆さんが出来る対処法についてお伝えします。

 心理的リアクタンスは人間の自然な心の働きではありますが、すべての人に同程度の強さで生じるわけではなく、性格特性による個人差があります。

 玉宮義之(2024)およびDowd‚ E. T. ほか(1994)によると、自己評価が低い場合や、自己主張性が強い場合は心理的リアクタンスが強く、他者をポジティブに捉えている(例:信用できる)場合は心理的リアクタンスが弱いというデータが示されています。

 そのため、社会人の方は自分の性格を踏まえた上でリアクタンスの程度を把握しておくと、仕事がしやすくなるかもしれません。例えば、過去に上司に強制的に指示された際に、自分がどういう反応をしていたか具体的に思い出してみると、自分の特性が分かってくるはずです。

職場における自殺のポストベンションの実際

心理的リアクタンスの強さに合わせた仕事術

 心理的リアクタンスが強い人は、指示を受けた時に、「いや、それは…」と頭の中で浮かびがちです。そんな時は、「なるほど、そういう考え方もあるかも」と一度受け止めてみると、上司との関係性が良好になったり、仕事の選択肢が広がるかもしれません。

 一方、心理的リアクタンスが弱い人は、強制的な指示に対して抵抗感が少ないため、知らず知らずのうちにオーバーワークになるリスクもあります。頼まれごとをされたら、すぐに「はい」と言わず、「ちょっと考えてみてもいいですか?」と一呼吸置いてみると、ゆとりを持って仕事に取り組むことが出来るかもしれません。

 さて、あなたは心理的リアクタンスが強い人? 弱い人ですか?

 それによって職場でのコミュニケーションの取り方も変わってきます。

 「心理的リアクタンス」という概念を知ることで、「こうやって仕事の指示をしたらいいんだ!」「こうやって上司に交渉してみよう!」と思っていただけたら嬉しいです。

 自分の特徴を知って、上手に春の新生活を乗り切っていきましょう。

 


<<参考>>

  • Brehm‚ S. S.‚ & Brehm‚ J. W. (1981). Psychological reactance: A theory of freedom and control. New York: Academic Press.
  • 大谷 和大・山村 麻予(2019). 学級の規範の伝え方が児童の心理的リアクタンス、規範の取り入れ意図に及ぼす影響. 日本心理学会大会発表論文集‚ 2433-7609.
  • 玉宮 義之(2024). 心理的リアクタンスと自己・他者スキーマとの関連. 白鴎大学教育学部論集‚ 18(2)‚ 169-180.
  • Dowd‚ E. T.‚ Wallbrown‚ F.‚ Sanders‚ D.‚ & Yesenosky‚ J. M. (1994). Psychological reactance and its relationship to normal personality variables. Cognitive Therapy and Research‚ 18(6)‚ 601–612.
  • Seemann‚ E. A.‚ Buboltz‚ W. C.‚ Thomas‚ A.‚ Soper‚ B.‚ & Wilkinson‚ L. (2005). Normal personality variables and their relationship to psychological reactance. Individual Differences Research‚ 3(2)‚ 88–98.

 

執筆者:谷 里子(臨床心理士、公認心理師)
東京メンタルヘルス カウンセラー
大正大学人間学研究科 福祉・臨床心理学専攻 博士後期課程 単位取得後満期退学。
これまで教育現場や児童精神科にて心理的アセスメントに尽力してきました。子どもの持っている能力を見極め、回復力を見いだす支援・研究に日々取り組んでいます。


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