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メンタルヘルス通信
ストップ! 不機嫌ハラスメント ~ご機嫌も不機嫌も自分でつくるもの~

事例:リーダーが怖い!
とある中小企業のマネージャーAさんから、部下のBさんについての相談を受けました。
Aさんは現場業務と合わせてマネジメントも行うという、多忙をきわめているプレイングマネージャーでした。1年365日休みなく働いていると言います。
Aさんはこのままの働き方では自身の健康状態も危惧されたため、長年仲間として働いてきたBさんをリーダーに指名し現場を任せました。そして、自らは現場業務を離れることとしました。
ところがほどなくして、現場スタッフからの不平不満があちこちから、Aさんのところに入ってきました。スタッフが口々に言うのは、リーダーのBさんが怖いということ。Bさんが何か機嫌を損ねるとマスク越しに強い目でにらみつける、ドアを音を立てて強く閉める、大袈裟にため息をついたりする。また、一緒に仕事をしたくない、一緒に仕事をしなければならない日はとにかくストレスといい、ビクビクと非常に緊張しながら仕事をしている。さらに、失敗やミスをすると他の人に聞こえるようにわざと大きな声で指摘する、ともありました。
これはいくつかの事例から創作した創作事例ですが、もしかしたら皆さんの職場でもこういったことはありませんでしょうか?
不機嫌ハラスメント(フキハラ)
不機嫌ハラスメントという言葉を聞いたことがありますか? 略して「フキハラ」と言われます。
法律や指針などでの定義があるわけではありませんが、一般的には「不機嫌な態度や言動によって、周囲の人々に不快感や精神的な苦痛を与える行為」と言われています。
不機嫌ハラスメントとは「不機嫌」という自身の感情を、立場の弱い者などに当てつける、あるいは職場に撒き散らかすような行為です。事例にあげたような、「無言で睨みつける」「ドアを勢いよく閉める」「あからさまにため息をつく」などがよくある例です。
企業等で行うハラスメント防止研修の際、参加者からよく出る質問があります。
「これはハラスメントになりますか?」「この言い方は大丈夫ですか?」など、どういった言葉や言い方がハラスメントにあたるのかという質問です。
一方、この不機嫌ハラスメントについては、「にらむ」「ドアを強く閉める」「ため息をつく」などがそうであるように、言葉を発せずになされることもあるのが特徴的です。言葉がないところから、サイレントモラハラと言われることもあります。
不機嫌=ハラスメントではない
不機嫌ハラスメントと言うと、よくある取り違いに、「不機嫌があってはいけない、不機嫌であること自体がハラスメントである」といった誤解があります。この誤解が過ぎると、不機嫌にもなれない職場となってしまいます。そうなってしまうと、機嫌よくいなければいけないと縛られ、逆にそれはそれで大変窮屈な職場となり、ストレスフルとなってしまうでしょう。
不機嫌イコールハラスメントなのではなく、不機嫌を立場の弱い者などにあてつけて多大な脅威を与えたり、過度に傷つけたり、職場環境を劣悪にさせることがあるとすると、ハラスメントになりうるということです。
多岐にわたるフキハラの影響
それでは、フキハラが横行している職場ではどのような影響が出るのでしょうか?
事例にあるように、フキハラはその人の機嫌次第で起こります。機嫌が悪いときには、大変理不尽なことでありますが、何をやっても睨まれたり、ため息をつかれたりしてしまいます。このような状況であると、周囲はビクビクし、始終精神的に過度な緊張状態におかれることとなります。
この状態を心理学的には、職場の心理的安全性が過度におびやかされている状態と言います。そして心理的安全性が過度におびやかされている職場では、以下のことなどが現れやすくなってしまいます。
- ストレスが増大し、心身の不調や病気の元となる
- スタッフは怒られないように消極的な行動に向かいがちになり、職場のパフォーマンスは落ちていく
- 同様に、自ら進んでの自主的な行動は減り、スタッフの創意工夫や新開発など創造的な業務が少なくなる
- 企業へのロイヤリティ(忠誠心、帰属意識、愛社精神等)低下
- 職場の雰囲気は悪くなり、その雰囲気が顧客にまで伝染し、顧客離れをも招く
- スタッフは長続きせず、他に職を探したり、退職者が増える
フキハラ対策はパワハラ対策と同じ
フキハラ対策は、パワハラ対策と同様です。主なものを抜粋します。
- ハラスメント防止規程を定める
- 組織の役職者や責任者が、ハラスメントは決して許されないという意思を明確にスタッフに伝えていく
- ハラスメントやコミュニケーションの研修など、ハラスメント防止教育を継続的に行なう
- ハラスメント通報窓口や相談窓口を作り、またアンケートを定期的にとるなどして、ハラスメントになりうるケースを早期発見・早期対応できる体制をとる
ご機嫌も不機嫌も自分でつくるもの!
東京のFMラジオ局、J-WAVEの平日朝のナビゲーターとして活躍している別所哲也さんが、朝のラジオでよく言っている言葉で、よいなぁと思う言葉があります。
『ご機嫌は自分でつくるもの!』
自分の不機嫌を誰かにあてつけて解消しようとすると、フキハラになってしまうことがあります。そうではなく、自分で自分のご機嫌をつくっていく。フキハラ対策の根幹はここにあると言えるでしょう。
ご機嫌だけではなく、不機嫌も自分でつくるものでもあります。誰か他の人が自分の不機嫌をつくりだしているのでは決してありません。心理学的には自らの感情を作り出しているのは、他の誰かではなく、自らの思考に他なりません。
執筆者:新行内勝善
東京メンタルヘルス株式会社 法人事業部長代理/リワークサポートセンター長/メンタルヘルス通信編集長
NPO法人 東京メンタルヘルス・スクエア 副理事長/カウンセリングセンター長
精神保健福祉士,公認心理師,ハラスメント防止コンサルタント,SNSカウンセラー,森林セラピスト
【主な著書】
- 鳥飼,新行内共編著『自殺対策の新たな取り組み SNS相談の実際と法律問題』誠信書房,2024
- 新行内『対面ではつながることが難しい人に寄り添うオンライン(SNS)相談』月刊福祉,2022年2月号特集
- 新行内『今こそ知ろう!SNS相談』月刊学校教育相談(ほんの森出版)2020年4月~2021年3月連載
- 分担執筆『ここがコツ!実践カウンセリングのエッセンス』日本文化科学社,2009