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メンタルヘルス通信
データが語る言葉の暴力の現実 ~ ときにペンは剣より強くて怖い ~


「ペンは剣より強し」という有名な言葉を耳にしたことがあるでしょう。言葉は人を励まし、社会をも動かす力を持つ一方で、現代においては、時として言葉は剣以上に鋭く、心を深く傷つける凶器となってしまう側面があるのではないでしょうか。
本稿では、カスタマーハラスメントやSNS上でのひぼう中傷が大きな社会問題となっている昨今、避けては通れない「言葉の暴力」とその影響について考えてみたいと思います。
リアルにもオンラインにも潜む「言葉の暴力」
今もなお、さまざまに暴力事件が報道されています。身体的暴力は以前と変わらず大きな脅威ですが、私たちの日常においてより身近で深刻なのは、実際には言葉による暴力なのではないでしょうか。
パワハラ・モラハラ・カスハラ・いじめ・誹謗中傷・差別…。リアルでもSNS上(オンライン)でも、言葉はいとも簡単に鋭利な凶器となってしまいます。そして、時にその精神的被害は心の病や自死へと至り、人命を奪うことさえあります。
データが示す「言葉の暴力」の多さ
数々の調査結果より、その深刻さが浮かび上がってきます。
子どものいじめ認知件数では、「冷やかし・からかい・悪口や脅し文句等」言葉の暴力が約6割に対して、身体的暴力は2~3割です。言葉の暴力は身体的暴力の約2~3倍に達しています。さらに近年増加傾向にあるのがネットでのひぼう・中傷で、1~2割あります。(文部科学省, 2024)。
職場のパワハラでは、脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言といった精神的攻撃が43.8%を占め、暴行・傷害などの身体的攻撃は8.7%です。実に、精神的攻撃は約5倍の多さです(日本労働組合連合会, 2021)。
このように、大人になるにつれ身体的な攻撃よりも精神的攻撃の割合が顕著に増え、言葉の暴力の脅威が大きくなってきていることがわかります。
「見えない暴力」の怖さ
言葉の暴力が厄介なのは、身体的暴力とは異なり外からは見えにくい点にあります。それゆえ潜在化し、被害は長期化・重症化し、被害者は孤立化しやすいのです。
- ①周囲から見えにくい
身体的暴力では傷やあざといった外傷があり、比較的気づかれやすいですが、言葉の暴力は外から見えやすくは現れません。このため注意深い観察や心の声にまで丁寧に耳を傾けなければ気づかれず、支援が届きにくい現実があります。
- ②精神的被害は声をあげにくい
言葉の暴力を訴えるには勇気が要ります。声をあげても「大げさだ」などと受け止められる恐れもあり、被害者は沈黙しがちです。周囲も指摘しづらく、結果として事態は見過ごされやすくなってしまいます。
- ③潜在化・孤立化・長期化・重症化
このような事情が重なり、言葉の暴力の場合、特に被害者は支援を得られぬまま孤立し、精神的ダメージを増幅し、なおかつ長期化させてしまいがちです。
日常的観察と声を出しやすい仕組みづくり
言葉の暴力とその被害者への対応において、先にあげた「見えにくさ」と「声の出しにくさ」をカバーできるような仕組みづくりがポイントとなります。まずは下記の2点が基本です。
- ①日常的な観察と気づき
精神的な被害は見えにくくても、その表情や言動には何らかの変化が現れているものです。例えば、元気がない、表情の変化がない、仕事や学業でのパフォーマンス低下、遅刻・欠席の増加、怒りっぽさや落ち着きのなさといった心の不安定さなどです。こうした小さな変化を見逃さず、気になれば声をかけたり、上司・管理職・相談窓口などにつなぐことが重要です。
- ②声を出しやすい仕組み
投書箱やオンライン通報フォーム、定期的なアンケート調査は、直接言いにくい声を拾う有効な手段です。すでに学校では実施例が多いですが、職場でも導入することで早期発見・早期対応につながります。
おわりに
言葉は人を勇気づける力を持つ一方で、それはひとたび暴力となれば深刻な精神的被害をもたらします。しかもその被害は見えにくく、声をあげにくいため、潜在化・孤立化・長期化・重症化しやすいという特性を持ちます。
私たち一人ひとりが日常的に小さな変化に気づき、声を拾いあげられる仕組みを整えることが、被害の拡大を防ぐ大きな鍵となります。
本稿では対応策に焦点を当てましたが、言葉の暴力を出さないような予防的なアプローチについても引き続き考えていく必要があります。次回以降、予防の視点についても掘り下げていきたいと思います。
(出典)
- 文部科学省(2024年),「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」
- 日本労働組合総連合会(2021年),「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021」
執筆者:新行内勝善
東京メンタルヘルス株式会社 法人事業部長代理/リワークサポートセンター長/メンタルヘルス通信編集長
NPO法人 東京メンタルヘルス・スクエア 副理事長/カウンセリングセンター長
精神保健福祉士,公認心理師,ハラスメント防止コンサルタント,SNSカウンセラー,森林セラピスト
【主な著書】
- 鳥飼,新行内共編著『自殺対策の新たな取り組み SNS相談の実際と法律問題』誠信書房,2024
- 新行内『対面ではつながることが難しい人に寄り添うオンライン(SNS)相談』月刊福祉,2022年2月号特集
- 新行内『今こそ知ろう!SNS相談』月刊学校教育相談(ほんの森出版)2020年4月~2021年3月連載
- 分担執筆『ここがコツ!実践カウンセリングのエッセンス』日本文化科学社,2009