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メンタルヘルス通信

自殺対策の新たな取り組み SNS相談の実際と法律問題

2024年8月2日
No.110
メンタルヘルス通信 No.110

 

自殺対策の新たな取り組み SNS相談の実際と法律問題

はじめに

 2024年4月、心理関係の書籍において専門性の高い出版社として名高い誠信書房より、『自殺対策の新たな取り組み SNS相談の実際と法律問題』が出版されました。同書は、弁護士の鳥飼康二氏と東京メンタルヘルス・カウンセラーの新行内が共同編集・執筆したものです。自殺対策のSNS相談に関わっている11名の東京メンタルヘルス・カウンセラーも分担執筆しています。

 今号のメンタルヘルス通信では、同書共同編著の新行内が、同書の成り立ちや時代背景から特徴まで、簡潔にご紹介します。

 同書自体は現場で活躍するカウンセラーに向けて書かれたいわゆる専門書の類ですが、この記事は“SNS相談の今昔と未来”を知れる内容にもなってますので、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

自殺対策のSNS相談のスタート(厚労省)

 自殺対策のSNS相談についてご存知ではない方のために、ここで簡単にご説明します。(なお、SNS相談についてより詳しくは同書をご参照いただければと思います。)

 これまで日本では、自殺対策の相談といえば「いのちの電話」に代表される電話相談が主でした。2017年秋、SNS相談が注目され始めるきっかけとなった、ある大きな事件がありました。SNS上で「死にたい」と思い悩む若い男女に巧みに声をかけ次々と殺害に及んだ座間9人殺害事件です。こうした社会状況を受け、厚労省ではSNS上での「死にたい」という切実な声に応えうる、信頼のおける相談の場をつくることが喫緊の課題と考えました。その後ほどなくして、2018年3月より主にLINEを用いたSNSにおける自殺対策の相談をスタートしました。

相談は年間66,000件。約半分の対応率

 以来、NPO法人東京メンタルヘルス・スクエア(以降「TMS」と略)では厚労省の自殺対策のSNS相談を続けています。このTMSのSNS相談立ち上げ時、弊社東京メンタルヘルスは全面的に協力し、現在も引き続き協力関係を続けています。(*)

 TMSにおけるSNS相談件数は、特に相談室内での対面相談を制限せざるをえなかったコロナ下においては爆発的に増えました。現在、毎日9-24時まで1日40名弱のカウンセラーが、SNSから寄せられる「死にたい」思いの相談にのっています。

 SNS相談がスタートした2018年3月の1か月間の相談件数は1,420件でしたが、昨年2023年度は年間66,000件、1か月平均5,500件でした。この5年間で約4倍の相談件数ですが、カウンセラーの懸命な努力にもかかわらず、相談希望者全ての相談には残念ながら答えきれていません。相談希望者のうち、およそ半分位の相談に対応するのが精一杯の状況です。

インターネットと自殺、自傷、SNS相談

 同書ではさまざまな分野の専門家が執筆しています。その一部をご紹介していきます。

 ジャーナリスト/ノンフィクション作家の渋井哲也氏は、援助交際、自殺、生きづらさ、地下アイドル、東日本大震災などを精力的に取材してきています。

 同書では、「オンラインにあふれる『死にたい』感情」と題し、座間事件はもちろん、インターネットと自殺、インターネットと居場所について、渋井氏の鋭い視点から解説しています。また、渋井氏には、「自殺や自傷の旧Twitter削除・凍結の善し悪し」「SNS依存」についても専門的に執筆してもらっています。

全国SNSカウンセリング協議会、茨城いのちの電話

 同書には、SNS相談の業界団体やいのちの電話からも執筆しています。

 全国SNSカウンセリング協議会は2017年に発足し、我が国におけるSNS相談を牽引してきている業界団体です。SNS相談の信頼性をさらに高め、社会貢献に資するためにSNSカウンセラーの認定もしている唯一の団体です。協議会から常務理事の浮世満理子氏が、協議会と自殺相談について執筆しています。

 現在、日本全国50か所にあるいのちの電話ですが、他に先がけてSNS相談を2021年5月にスタートしたのが茨城いのちの電話です。その茨城いのちの電話からは、SNS相談委員会委員長の森本純代氏が「茨城いのちの電話によるSNS相談」について執筆しています。

AIの活用、米国の先進例、チャット分析

 さらに同書では今後の課題についてもまとめています。特に現在、SNS相談におけるAIの活用についてTMSと共同研究を進めている東京大学の今井健氏、菊池愛美氏にも執筆していただいています。「チャット分析ですべての人が相談できる社会に」「AI(ChatGPT)とカウンセラー共存の方向性」というタイトルで掲載しています。

リスクの高い相談、子どもたちの自殺危機

 また同書では、東京メンタルヘルスより、ベテランのカウンセラーが、SNS相談に寄せられる自殺リスクの高い相談への対応方法についても、簡潔にポイントをまとめています。うつ病、OD(オーバードーズ)、リスカ、性被害、虐待、孤独・貧困・経済苦、LGBTQ

 10代・20代の若年層の相談利用が多いのがSNS相談の特徴のひとつです。夏休み明けは子どもたちの自殺が最も多く、さらに注意が必要です。そして9月10日~16日は自殺予防週間です。現場のカウンセラーにとっては特に気の抜けない日々が続きます。

 


*弊社 東京メンタルヘルスにおいても全国各地の自治体 からSNS相談の委託を受け、日夜カウンセラーが相談に応えています。
SNS相談(チャットカウンセリング)サービス
書籍・ツール

『自殺対策の新たな取り組み SNS相談の実際と法律問題』

 


執筆者:新行内勝善
東京メンタルヘルス株式会社 法人事業部長代理/リワークサポートセンター長/メンタルヘルス通信編集長
NPO法人 東京メンタルヘルス・スクエア 副理事長/カウンセリングセンター長
精神保健福祉士,公認心理師,ハラスメント防止コンサルタント,SNSカウンセラー,森林セラピスト

【主な著書】

  • 鳥飼,新行内共編著『自殺対策の新たな取り組み SNS相談の実際と法律問題』誠信書房,2024
  • 新行内『対面ではつながることが難しい人に寄り添うオンライン(SNS)相談』月刊福祉,2022年2月号特集
  • 新行内『今こそ知ろう!SNS相談』月刊学校教育相談(ほんの森出版)2020年4月~2021年3月連載
  • 分担執筆『ここがコツ!実践カウンセリングのエッセンス』日本文化科学社,2009


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