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メンタルヘルス通信

51号 「新うつとは?その1」

2015年11月2日
メンタルヘルス通信

 

<新うつとは? その1>

うつは基本的に落胆と失意を感じる状態であり、それも深刻で長く続く。その落胆と失意は絶望感や自己否定感を根底に持つ。

こういった絶望感や自己否定感は何からくるのか。

まず考えられるのはストレスである。例えば身も心も磨り減るような過酷な労働が続くこと。どっちに転んでも思い通りにならない人間関係の板ばさみ、大切なものや愛する人を失った喪失感、理解してほしいと思っている人からの裏切られ体験、失敗やトラブルに対する自責の念、気持ちのすれ違いなどに端を発している。

そしてさらにそのストレスを受け止める本人の気質や性格、場合によっては周りのサポートなどがうつの程度や状態を左右する。

これまでうつといえば遺伝体質からくる内因性のうつ病や上述したようなストレスフルな出来事に反応して発症する反応性うつ病が主であった。これらはDSM(アメリカ精神医学会の診断基準)では「単極性気分障害」として括られているものである。

この中には身体症状が目立ち、精神症状が隠される「仮面うつ病」や不安や焦燥感が強かったり、逆に空虚感や抑うつ感にとらわれてしまう「初老期(更年期)うつ病」、心気的身体的愁訴が多い「老年期うつ病」なども含まれている。

これに対し、「双極性気分障害」というのがある。これはうつ状態と躁状態を繰り返すもので、Ⅰ型とⅡ型がある。

前者は躁状態とうつ状態が波のように押し寄せるものであり、後者は軽い躁状態は伴うものの基本的にはうつ状態の反復が中心になっているものである。

従来いわれてきた「躁うつ病」や躁状態が1週間以上続くような「躁病」は双極性気分障害に含まれている。双極性気分障害は単極性気分障害よりも発生頻度は低く、発症年齢も低い。また、家族に同じ病気の人がいるなど、ストレスよりも遺伝体質的な要因が強い。躁状態の時には気分が高揚し、多弁、多動が目立ち他人から注意されるとすぐに怒ったりすることが多い。

ところで、最近働く人達や若い人達を中心に新しいうつが蔓延していることが話題になっている。こういった新しいうつは、現代うつとも呼ばれ、単極性気分障害でもなければ双極性気分障害でもない。

「職場結合性うつ(仕事や職場に来るとうつになる)」「抑うつ神経症」「抑うつ人格障害」「循環病質」「ディスサイミア(気分変調性障害)」などがこれに相当する。

これらは、パーソナリティに偏りがあるとされ、従来の抗うつ薬では効き目が見られない。軽いうつ状態や不満、不快感などが四六時中存在し、2年以上にわたって続く。うつ病全体の3割に存在し、しかもその割合がますます広がっているのが実状である。従って、心理療法や家族療法、グループワーク、環境調整などに期待がかけられている。

新しいうつの特徴は、従来のうつが自責の念を基調とする様々な心身の症状が中心であるのに対し、上司や周囲の人達を責めたり、集団や組織に慣れ親しむことを拒否し逸脱行動をとることが多い。パーソナリティや防衛機制の問題が絡み、自己抑制が強く自分を出せなかったり、ナーバスでちょっとした出来事や人間関係で傷つくことも多い。自己愛が強く自己中心的で、周囲に対して配慮する態度が欠如していることもある。

もちろんこの中には膨大な仕事量をコツコツとこなし続け、高水準のIT機器を使いこなしている人も少なくない。周囲との関係から身を引き、自分の世界に籠りがちなタイプもいる。そんな若者たちは孤立してしまいがちで、自分の領域を侵されることに恐怖心も抱いている。それでもひとり作業環境や自己完結型のワークスタイルを黙々と維持し続けている。こんな姿をうつと評するのはあまりに薄情で辛辣かもしれない。

新しいうつの流行は職場環境や社会環境のめまぐるしい変化、人間関係の希薄さ、新たな人事制度の導入、成果主義などからきていることは言うまでもない。しかし、ライフヒストリーやライフキャリアとしての、親子問題や家族問題、総じて成長・発達課題を様々に、またそれぞれに引きずっていることも確かで、不満や不信感を強く持ちながらも完璧性も強く、抑制的だったりする。

それは極論するなら「他者報酬型」のライフスタイルとも言われる。周りの評価を気にしすぎ、自分らしさや本来の自分を失っている状態であり、まずこのライフスタイルに気づくことが求められる。


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