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メンタルヘルス通信

クレーマー、モンスターペアレントから「カスタマーハラスメント」対策へ

2025年5月20日
No.119
メンタルヘルス通信 No.119

 

カスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」対策

 新年度に入り、カスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」対策が、全国のいくつもの自治体や企業にて始まってきています。

 今号のメンタルヘルス通信では、現在のカスタマーハラスメント対策に至るまでの動向のポイントをまとめてみました。

 働く人々のメンタルヘルスを守るためにカスハラ対策がさらに進んでいくことを願ってやみません。

苦情屋、クレーマー、モンスターペアレント

 今では多くの方が知る言葉となった「カスハラ」ですが、その前より「苦情屋」「クレーマー」と言われてきました。

 時代をさかのぼると、1999年に東芝の製品をめぐり顧客がクレームをつけた事件が大きく報道されましたが、このときよりクレーマーという言葉が広がり始めました。「クレーマー」は2000年代に入り、しつこく理不尽なクレームを言う顧客を指す言葉として一般的になってきました。クレーマー対応は、働く人々にとって多大なストレスです。

 似たような言葉では、「モンスターペアレント」があります。モンスターと化した親という意味ですが、教職員や学校に対して過剰で不当な要求をする保護者を指し、「モンペ」などとも呼ばれ、恐れられています。モンスターペアレントのみならず、学級崩壊もある教育現場では、教職員のストレス・精神疾患・休職が後を絶ちません

 クレーマーやモンスターペアレント対策のために、さまざまな研修が行われ、また対処マニュアルも作られてきています。一例として、公僕とも言われる公務員が、住民からの理不尽な暴力的行動があった場合に適切に対処するための「行政対象暴力対応マニュアル」などがあります。

カスハラ対策、法制化の進展

 このような状況の中、働く人々のメンタルヘルスのために、カスタマーハラスメント対策が大きな課題となってきています。このため、近年、以下のように法制化等の動きが進展しています。

2020年:いわゆるパワハラ防止法である「労働施策総合推進法」の改正により、顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)についても、相談体制の整備や被害者への配慮が望ましいとされる。

2022年:厚労省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成し、企業における対策を支援。

2023年:労災認定基準改正により、心理的負荷評価表に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という項目が追加。これにより、カスハラが原因で精神疾患を発病した場合の労災認定がより明確になる。
また、同年の旅館業法改正では、迷惑な客の宿泊拒否が可能となる。

2025年:東京都、北海道、群馬県にて、全国初となるカスタマーハラスメントの防止に特化した条例が施行。

カスハラをめぐる法整備の概略

ディズニーランド、都教委、万博

 さらにここ最近の動きをいくつか見ていきます。

 4月18日に東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド(OLC)がカスハラへの対応方針をまとめたと発表がありました。カスハラにあたると判断した場合には、ディズニーランドをはじめとするOLCの施設利用を断るとしています。

 東京都教育委員会では、東京都でのカスハラ防止条例を受け、学校などでの保護者からの過度なハラスメントへの対策に乗り出すことを決めました。

 4月28日には、日本国際博覧会協会が、大阪・関西万博の会場での職員やスタッフへのカスハラに対応するための基本方針を作成したと発表がありました。カスハラにあたると判断した場合は、入場拒否や退場、今後の入場制限などの対応を取ると規定し、必要に応じて法的措置も取るとしています。

 そして今国会においては、カスハラ対策を雇用主に義務付ける法案(労働施策推進法改正案)が提出され審議中(2025年4月末現在)であり、成立する可能性が高いとみられています。法案の内容を一言でいうと、セクハラ・マタハラ・パワハラと同様にカスハラ対策を「雇用管理上の措置義務」とするものです。法案が通過すれば施行日は早ければ2026年10月頃となる見込みですが、さらなる企業の対応が必須となります。

 今号では、クレーマー、モンスターペアレントから、カスタマーハラスメント対策への経過を見てきました。次号以降でも、メンタルヘルスのために必要なカスタマーハラスメント対策についてみていきたいと考えています。

 


執筆者:新行内勝善
東京メンタルヘルス株式会社 教育事業部長/リワークサポートセンター長/メンタルヘルス通信編集長
NPO法人 東京メンタルヘルス・スクエア 副理事長/カウンセリングセンター長
精神保健福祉士,公認心理師,ハラスメント防止コンサルタント,SNSカウンセラー,森林セラピスト

【主な著書】

  • 鳥飼‚新行内共編著『自殺対策の新たな取り組み SNS相談の実際と法律問題』誠信書房,2024
  • 新行内『対面ではつながることが難しい人に寄り添うオンライン(SNS)相談』月刊福祉,2022年2月号特集
  • 新行内『今こそ知ろう!SNS相談』月刊学校教育相談(ほんの森出版)2020年4月~2021年3月連載
  • 分担執筆『ここがコツ!実践カウンセリングのエッセンス』日本文化科学社,2009

※東京メンタルヘルスでは、さまざまなハラスメント対策の支援を行っています。
一例として,ハラスメントに関する研修,ハラスメントの社外相談窓口,ハラスメント相談に対応するカウンセラーや弁護士の出張(派遣型)などを行っています。
メンタルヘルスプランナーが,ハラスメント対策に限らずさまざまなメンタルヘルス対策のご相談にのっていますので,お気軽にご連絡いただければと思います。
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