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メンタルヘルス通信
オランダ発・子どものメンタルヘルス最前線
「学校か、家庭か」の二項対立を超えて。
オランダとフィンランドに学ぶ、子どもを「立体的」に見守る対話のヒント


【記事の要約】
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本記事は、学校と家庭が責任を押し付け合うのではなく、子どもの小さな変化を「立体的」に捉えて共有するパートナーシップの重要性を説いています。オランダの対話のヒントやフィンランドのICTプラットフォーム「Wilma」の事例を挙げ、日常的な情報共有が信頼関係の土台になることを示しています。深刻な問題になる前に、デジタルの力を借りて些細な予兆(微熱)を気軽に共有し合うことが、教員と保護者が共に子どもを支えるセーフティネットになると提案しています。
■ はじめに
子どもたちを取り巻く環境が複雑化・多様化する現代において、「どこまでが学校の役割で、どこからが家庭の責任なのか」という境界線に頭を悩ませる方も多いのではないでしょうか。
不登校やいじめ、メンタルの不調など、目に見えにくい課題が増える一方で、共働き世帯の増加などにより家庭側もまた、孤立感や余裕のなさを抱えている現状があります。
「学校がもっと頑張るべきか」
「家庭がもっと抱え込むべきか」
この二者択一の問いに疲弊してしまう前に、少し視点を変えてみませんか。
今回は、オランダの教育現場の日常と、フィンランドの仕組みから、教職員の負担を軽くし、かつ子どもたちを優しく見守るための「情報共有のあり方」について考えてみます。
■「点」ではなく「立体」で子どもを捉えるパートナーシップ
私がオランダの教育環境に触れる中で印象的だったのは、問題が深刻化する前の小さな変化についても、保護者と共有しようとする姿勢でした。
それは、教員と保護者が要求し合う関係ではなく、子どもの成長を共に見守る対等なパートナーとして、ごく自然に機能していることにも結びついているのではないでしょうか。
例えば、クラスで少し気になる様子(いつもより発言が少ない、休み時間の過ごし方が少し違うなど)があった際、教員は問題行動として深刻化する前の段階で、気軽に保護者に声をかけます。
その際に添えられるのが、次のような言葉です。
「学校では最近こんな様子が見られますが、ご家庭ではいかがですか. 親御さんからは、どのように見えていますか.」
この問いかけの根底には、「学校での姿が子どものすべてではない」という大前提があります。
子どもは、学校で見せる顔と、家庭で見せる顔が違って当然です。
どちらが本当の姿かを探るのではなく、それぞれが見ている「ピース」(子どもの様子)を持ち寄ることで、初めて目の前の子どもの状態を立体的に理解できるようになります。
「先生、うちでも最近ちょっと元気がなくて心配していたんです」
となれば、すぐに連携して見守りを強化できますし、
「家では元気いっぱいです」
となれば、学校の人間関係や学習面で何か引っかかっているのかもしれない、とアプローチを絞ることができるでしょう。
学校だけで原因を抱え込まず、家庭で見えている様子も重ね合わせることで、子どもの状態をより深く理解できるようになります。
子どもを「立体的」に捉える考え方は、教員が「自分の見立てが間違っているかも」と不安にならず、保護者も「責められている」と感じない、ポジティブな協力関係の理由付けにもなっているようです。
このような関わり方は、特別な制度があるから実現しているというよりも、「子どもを一緒に理解し、見守ろう」という共通の姿勢が支えているように感じました。
■ フィンランドの「Wilma」にみる、日常の情報を共有するインフラ
こうした日常の小さな気づきの共有を、個人の努力や裁量に頼るのではなく、システムとして支えている国もあります。
フィンランドの多くの小中学校に導入されているデジタルプラットフォーム「Wilma(ヴィルマ)」(*1)です。
Wilmaは、欠席連絡や宿題の確認といった事務連絡だけでなく、教員と保護者が日常的なメッセージを交わすコミュニケーションツールとして機能しています。
特徴的なのは、トラブルが起きたときだけの「緊急連絡ツール」にとどまらず、日常的な情報共有を通じて信頼関係を築いておくという考え方です。
現場では、問題行動の指摘だけでなく、子どもの小さな変化やポジティブな姿も共有していく試みが模索されています。
実際、近年の調査でも、こうしたデジタルツールは「子どもの日々の変化や学習状況を把握するために欠かせないインフラ」として浸透している一方、単なる事務連絡にとどまらない「質の高い対話」をいかに生み出すかが課題として指摘されています。(*2)。
また、フィンランドの教育方針において、学校と家庭が連携して「子どもが安心して過ごせる環境」を育むことが学習の基盤として位置づけられており、こうした日常的な情報共有がその土台を支えてきました。(*3)。
OECDの国際調査(PISA 2022)でも、学校と家庭が日常的に繋がり、保護者が子どもの学校生活に関心を持つことが、子どもの学校への帰属意識や、環境変化に対する心理的な強さ(レジリエンス)を支える大切な要因として挙げられています。(*4)。
■ 「重い相談」になる前に、小さな「微熱」の情報を持ち寄るという選択
「不登校傾向が顕著になった」
「いじめの疑いがある」
など、深刻な状態になってからの学校と家庭の話し合いは、どうしても
「学校の/家庭のケアが足りない部分があったのでは」
「どう対応すべきか」
という緊迫した空気になりやすく、お互いに責任を問われているように感じてしまうことも少なくありません。
だからこそ、必要なのは、日常の些細な変化(微熱)をお互いにハードル低く共有し合える仕組みです。
例えば日本でも、生徒が毎日、自分のその日の気分をお天気マークなどで入力する「見守りアプリ」の活用が進んでいますが、小さな変化をキャッチする現代的なアプローチですね。
「今週に入ってから、〇〇さんのアプリの記録がずっと雨マークだな」
と教員が気づいたとき、保護者に対して
「最近、アプリで雨マークが続いているようで少し気になっているのですが、ご家庭でのご様子はいかがですか.」
と、実際に子どもが入力した生のデータを基に、柔らかく声をかけることができます。
保護者側にとっても、
「学校が我が子の小さなサインに気づいてくれている」
という安心感に繋がり、家庭での様子を話しやすくなります。
お天気を入力・確認して終わりではなく、問題が深刻化して「不登校対応」という重いカードを切る前に、日々の「お天気の変化」を共有しておくこと。
これが、いじめや不登校などの兆候を早期に捉え、必要な支援につなげるために、教員や保護者のアンテナの精度を上げるセーフティネットになるのではないでしょうか。
■ おわりに:抱え込まない学校現場を目指して
海外の教育システムをそのまま日本に持ち込むことはできません。
それぞれの国に、固有の文化や歴史があるからです。
しかし、「学校か家庭か」という二項対立を解きほぐし、「学校と家庭で情報を持ち寄りながら、一緒に子どもを支える」という姿勢や考え方は、今日から、そして既存のICTツールや見守りアプリを通じても実践していくことができます。
教員がすべての責任を一人で背負い込む必要はありません。
アプリなどデジタルの力を借りながら、保護者と同じ目線で子どもを見守る、温かい連携の輪が広がっていくと、学校現場に変化が訪れるかもしれませんね。
こうした課題に対し、毎日の心の状態をお天気マークで可視化し、適切な声かけのタイミングを逃さない、生徒のメンタル見守りアプリ「スクールコンケア」を活用したアプローチがあります。
学校と家庭を緩やかに繋ぎ、先生方の見守りをサポートする仕組みを、ぜひ取り入れてみませんか。
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<執筆者プロフィール>
石神 舞
オランダ在住スクールカウンセラー。東京メンタルヘルスにてスクールコンケアチームリーダーを担う。
教育現場における心理教育や子どものメンタルヘルスに関心を持ち、欧州の学校における取り組みや体制について現地で研究している。
現在は、日本語・英語でのカウンセリング対応や研修講師を務める傍ら、子どものウェルビーイング向上に活かせるヒントを発信中。
【参考資料・URL】
*1 Visma Wilma(フィンランド・学校家庭連絡システム) ※フィンランド語
*2 Parents’ Experiences of Home.School Collaboration via the Digital Platform Wilma(利用実態調査) ※英語
https://noredstudies.org/index.php/nse/article/view/6972/11748
*3 Wellbeing the Finnish Way | Education Finland(公式ウェルビーイング指針) ※英語
https://www.educationfinland.fi/wellbeing
*4 OECD PISA 2022 Results (Volume II) – Parental involvement in education ※英語
https://www.oecd.org/en/publications/pisa-2022-results-volume-ii_a97db61c-en.html
2026年5月28日/No.125
「問題が起きてから対応する」では遅い? 欧州の学校が「予防」に力を入れる理由
文:石神舞(産業カウンセラー)関連リンク
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