topics

メンタルヘルス通信

オランダ発・子どものメンタルヘルス最前線

「問題が起きてから対応する」では遅い? 欧州の学校が「予防」に力を入れる理由

文:石神舞(産業カウンセラー)

2026年5月28日
No.125
メンタルヘルス通信 No.125

 

オランダ発・子どものメンタルヘルス最前線

【記事の要約】

  •   オランダやイギリスの学校で、子どものメンタル不調に「問題が起きてから対応する」のではなく、小さな変化の段階で気づき支えるための予防的アプローチが実践されています。
  •   学校・自治体・専門機関が連携し、早期支援につなげる仕組みは、日本の教育現場にとってもヒントになる可能性があります。

■はじめに

 不登校やいじめなど、子どもたちの心のサインに向き合うことは、現在の学校現場で大きな課題となっています。教員は日々の忙しい教育活動の中で、子どもの小さな変化に気を配り、丁寧に関わろうと奮闘しています。

 その一方で、問題が深刻化してから対応につながるケースがあることも、ニュースなどで度々取り上げられてきました。

 オランダをはじめとした欧州の学校では、問題が起きる前から関わることを前提にしたアプローチが重視されています。その背景には何があるのか? 欧州におけるメンタルヘルスに対する基本的な捉え方を見ていきます。

■メンタル不調は徐々に進行するという前提

 WHOによると、子ども・若者の約7人に1人(約14%)が何らかのメンタルヘルスの問題を抱えているとされています。(WHOレポート ”Mental health of adolescents” より)

 多くの場合、不調はある日突然現れるものではなく、小さなストレスや環境要因の積み重ねによって徐々に表面化します。

 そのため欧州では、問題が起きてから対応するのではなく、兆候の段階で関わることが重要であるという認識が広く共有されています。

■「問題かどうか」ではなく、「変化があるか」を見る

 例えばオランダの学校では、

  • 発言が少し減っている
  • 友人との関係性に微妙な変化がある
  • 授業への集中力が以前と違う

 といった、まだ問題とは言えない変化も、日常的に教員間で共有されます。

 こうした背景には、学校単体で抱え込まず、自治体や医療機関と連携して支援する「ユースケア(Youth Care)」の仕組みがあります。これは、学校・自治体・医療が連携し、必要に応じて早い段階で専門職につなぐ体制です。

 そのため、問題が深刻化してから外部につなぐのではなく、違和感の段階で相談できる制度が整えられています。

■特別な施策よりも段階的な支援

 イギリスでも同様に、学校におけるメンタルヘルス支援は段階的な枠組みで整理されています。

 教育省(Department for Education)などが示すガイドラインでは、支援は以下のように段階的に考えられています。

  • 全体への予防的な関わり(universal)
  • 気になる子どもへの追加的支援(targeted)
  • 専門機関による対応(specialist)

 このように、問題の深刻度に応じて関わり方を変えることで、学校の中でできることから段階的に支援を重ねていく設計になっています。

■合理的な選択としての予防

 こうした予防的な関わりは、理念的なものにとどまりません。

 UNICEFの報告では、子ども・若者のメンタルヘルスに対する早期介入は、長期的に見て教育・福祉・医療にかかる社会的コストの抑制につながる可能性が指摘されています。(UNICEFレポート “The State of the World’s Children 2021”より)

 つまり、予防とは単なる理想論ではなく、持続可能な教育環境を支えるための現実的なアプローチでもあります。

■日本でもさらなるヒントになる視点

 制度や文化の違いを考えると、欧州の取り組みをそのまま導入することは簡単ではありません。

 ただ、一つの視点として参考になるのは、「問題があるかどうか」ではなく、「変化が起きているかどうか」に目を向けることです。

 大きな対応の前に、

  • 気づいたことを共有する
  • 短い声かけを行う
  • 小さな違和感を言葉にする

 こうした日常の積み重ねが、結果としてさらなる早期の支援につながります。

■おわりに

 子どものメンタルヘルスは、問題が起きたときだけ扱うものではなく、日々の関わりの中で少しずつ支えられていくものです。

 「まだ大きな問題ではない」と感じる段階こそ、実は大切な分岐点なのかもしれません。

 こうした課題に対し、スクールコンケアを活用した見守りや声かけのタイミングのアプローチがあります。

 詳細はこちら

 


執筆者:石神 舞(いしがみまい、産業カウンセラー)
オランダ在住カウンセラー。東京メンタルヘルスにてスクールコンケアチームリーダーを担当。
教育現場や子どもの心理教育に関心を持ち、欧州の学校におけるメンタルヘルスの取り組みを現地で研究している。
日本語・英語での相談対応や研修講師のほか、日本の学校や企業に活かせるヒントを発信中。


関連リンク

一覧へ戻る