メンタルヘルス・コラム

自分を振り返ること(セルフモニタリング)の大切さ

2019.09.27

●うつ病は本当に突然発症するの?

 

厚生労働省のデータによると、うつ病など気分障害の患者数は年々増加傾向で、現在は100万人を超えています。精神疾患者数が390万人ですから、精神疾患全体の4分の1以上を占めていることになり、その多さを物語っていると思います。

私は現在、埼玉県のあるクリニックで、うつ病等によって休職している人が職場復帰できるように支援するためのグループ・プログラム『リワーク』を行っています。

利用者さんたちにうつ病を発症したときの話を聞くと、「ある日突然、ベッドから立ち上がれなくなり…」「あるとき、急に身体のふんばりがきかなくなって、会社に行こうと思っても身体が動かなくなって…」という話をよくうかがいます。

うつ病の発症は本当に何の前触れもなく「突然」「急に」起こってしまうものなのでしょうか?

 

●ストレスに対する反応のプロセス

 

うつ病は何らかのストレスがきっかけとなって発症します。ストレスに直面すると、まずショック反応が見られます。落ち込んだり、不安になったり、イラっとしたり…。その後、ストレスに対処するために、抵抗反応を示します。このとき一時的に身体機能やパフォーマンスは向上するのですが、これは言わばストレスに抵抗するために無理をしている状態です。

短い期間の中で対処して問題解決されれば大丈夫なのですが、ストレス状態が長く続いてしまうと、無理した影響で次第に疲弊していきます。これを疲憊(ひはい)期というのですが、身体機能やパフォーマンスが徐々に下がっていくといった反応が見られます。

 

急激にお腹が痛くなる、激しく緊張するといった急性ストレス反応であれば、誰しも気づけるのですが、徐々に不満や疲労が溜まっていくような慢性ストレス反応は非常に気づきにくいものです。

それに加えて、「これくらい大したことない」「みんなも大変だからこんなことくらいで…」「迷惑をかけたくない」といった思いから、身体や心のちょっとした不調のサインを見逃してしまうことが少ないようです。結果として、ご本人としては、「突然」「急に」症状が現れたように感じるのでしょう。

 

●セルフ・モニタリングの大切さ

 

しかし、本当はうつ病になる前に何らかのサインが出ているはずです。

例えば「ちょっと体がだるい」「なんとなく気分が乗らない」「どうも食欲がわかない」「睡眠が浅い」「お酒やたばこが増える」など。こうしたちょっとしたサインに早く気付いてケアすることができれば、うつ病などを予防することがしやすくなります。

 

自分自身のことを振り返り、自分の状態に気づいていくことをセルフ・モニタリング(自己観察)というのですが、うつ病を予防するためにとても大切な力と言われています。

 

●お天気マークを使った振り返り方

 

例えば、体重を例に考えてみましょう。日々摂取する食物とそのエネルギー量を記録することで、食生活の改善につなげるレコーディング・ダイエットってありますよね(ウィキペディアより一部引用)。日々記録を取ることで、体重の変化やその理由を意識するため、ダイエットがしやすくなるという手法です。

 

同じように心の状態も、毎日記録を付けることでその変化に気づくことができ、心のメンテナンスに役立てることができます。

私が勤務しているクリニックでは、虹・晴れ・晴れ曇り・曇り・雨・雷雨の6つのお天気マークを使って、気分を振り返るワークを行っています。プログラムが始まるときとプログラムが終わるときの一日2回、そのときの気分に合ったお天気マークを選びます。

 

 

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例えば、「元気がいい」「調子が良い」状態なら晴れの方を、「しんどい」「調子が悪い」状態なら雨の方を、自分の基準で選びます。選んだあとに、どんな状態かコメントするのです。また、選んだお天気マークはシートに記入していき、ある程度継続すると、折れ線グラフが出来上がります。それを見ると、コンディションが上昇傾向なのか、下降傾向なのか、あるいは横ばい傾向で安定しているのか、一目瞭然というわけです。これは弊社のコンケアを活用したワークですが、セルフモニタリングを向上させるのに非常に効果的なワークです。

 

 

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●セルフ・モニタリングの効果 ~「いつもの自分」を知る~

 

最初は「割と調子が良い」「可もなく不可もなくという感じ」「普通」「ちょっと疲れている」といった端的な表現が多いのですが、続けていくと表現が豊かになり、どういう状況でどんな状態になっているのか詳しく説明できるようになります。

 

また、継続する中で「いつもの自分」という基準を知ることもとても大切です。

なぜならば「いつもと違う自分」になったときがストレスに晒されている状態だからです。この違いが分かるようになると、ストレスに早く気づけるようになり、より早いタイミングでセルフケアをすることができるようになります。そして、1つ1つのお天気マークの違いを説明できるようになると上級者。人によっては、睡眠の質が気分に影響するとか、不安があるかないかが気分を左右するとか、自分にとって大切なポイントが見えてきます。

ある患者さんは、最初は『晴れ』が「いつもの自分」と思っていたそうです。しかし、自己理解が深まる中で、不安が全くないと地に足がつかないような感じでミスが多く、逆に不安がある程度あった方がバランスをとりやすいことに気づかれました。それから『晴れ曇り』が「いつもの自分」になったそうです。

自己理解が深まってくると、「いつもの自分」の基準に変化が見られることも実はよくある話なのです。

さらにこの気づきから「不安はあってもいいんだ」と受容できたことで、心が安定していきました。

 

●セルフケアのコツ ~心の状態に合わせて過ごす~

 

また、セルフモニタリングをして、心の状態に合わせて過ごし方を選んでいくことも、セルフケアにおいてはとても大切です。

例えば、朝起きたらなんとなく体がだるくて頭が少し痛かったとします。体温を測ってみたら37.8℃。微熱という感じです。そのとき、みなさんはどう対処しますか?休むほどではないと判断して一応会社に行ったとしても、おそらくいつものように元気にテキパキ仕事をこなすというよりは、できることだけやって、なるべく早めに家に帰るのではないでしょうか?自分の体調に合わせて一日の過ごし方をある程度コントロールすると思います。

ある患者さんは、子どもと関わる仕事をしていました。子どもたちは元気いっぱいなので、子どもたちに合わせて笑顔で元気よく仕事をされていたそうです。体調がよくなかったり、しんどいときも無理をして常に全力で働いていました。ところが心が『晴れ』のときは普通にできることも、『雨』のときに同じようにやろうとすると、とてもしんどいと感じることがあります。セルフモニタリングを通してそのことを実感され、『雨』のコンディションにあった過ごし方をするように心がけたそうです。

「いつも全力じゃなくていい」「今の自分にできることをやればいいんだ」と思うことで心が軽くなったそうです。

 

●最後に…

 

このように、
①心の状態を振り返って、「いつもと違う自分」に早く気づいて、セルフケアを行う。
②自己理解を深めて、心の状態に合わせた過ごし方を選ぶ。

 

この2つを意識すると、良い心の状態で過ごせることが増えていくと思います。セルフモニタリングを習慣に取り入れて、心身の健康を良い状態に保てるよう心がけてみてはいかがでしょうか。

東京メンタルヘルス
公認心理師・臨床心理士 山本立樹

●関連情報
・本コラムにてご紹介した、コンディションマネジメントサービス「コンケア」のサービス詳細は、
 こちらをご覧ください。
・学校,教育機関向けの「スクールコンケア」のサービス詳細は、こちらをご覧ください。

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