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メンタルヘルス通信

2015年10月27日

48号 「和解力 その4」

<和解力 その4>

全ての和解は、自分の非を認めるという自覚なしには上手くいかない。前回の話し合いは次のような結果になった。

CO「Aさん、Sさんが怒っているのは、Aさんが彼の言い分を聞かずに病院に連れて行ったことだと言っていますが、Aさんが言い分を聞かなかった理由もあるのでしょうか」

A「言い分を聞いていたら、病院に連れて行けなくなるのではと思ったからです。こんなことを言ったら何ですが、Sさんのお母さんに頼まれたんです」

S「じゃあ、頼まれれば何でもやるのか!人殺しもやるのか?」

A(沈黙)

CO「Aさん、Sさんの言い分を今ここで聞いてやってもらえませんか」

A「わかりました。遅すぎるかもしれませんが、聞かせてください」

S「俺は何であの時、暴れたかっていうと、お袋がいつも話をすり替えるからなんだ。確かに暴力を振るったのはいけないけど、お袋も追い打ちをかけるような言い方をするんだ。あの日も『俺のこと恐いか』と詰め寄ったら、お袋は『恐くなんかないよ。自分の息子だもの・・・』と言うんですよ。『じゃあ、なぜ逃げようとするんだ』と言ったら、『母親なんだから逃げたりなんかしないよ』こんなふうに言い訳するんです。それで俺は『嘘つくな!正直に言え』って言ったんです。『嘘は言ってないでしょ』って言うから、こっちは頭にきて『これだからイヤになるんだよ!』それで机を叩いたら、お袋逃げやがってそれであんたの所に駆け込んだんだ。俺はお袋に『お前が恐いから逃げるんだ』って本音で言ってもらいたかった。お袋はいつも本音を言わずに建前ばっかり並べ立てる。俺はそうやって育てられてきたんだ。わかるか!Aさん、わかってくれAさん」

Sさんはまるで泣き出しそうな表情でAさんに訴えた。

A「・・・・。そうだったんだ。なんか今の話を聞いていて、自分の小さい頃のことを思い出しました。自分に似てるなって・・・私も母親には話を聞いてもらえなかったんです。父が酒乱でよく暴力を振るって いました。それが嫌で嫌で、そういう奴を取り締まりたい。そんな思いから警察官になったんです。Sさんの気持ちわかるよ・・・」

S「ほんとかよ。じゃあ俺を病院に連れて行ったことの過失認めるよな。謝れ!」

A(沈黙)

S「謝れよ!」

A「申し訳なかったです。あなたのことを少しも理解しないままで、あなたを病院に連れて行った私が悪かったんです」

S(沈黙)

A「あなたの人生に傷を付けてしまいました。本当にすいませんでした」

S「・・・・わかった。もういい」

Sの母「よかったなお前」

S「うるせんだ!お前は黙ってろ。勝手なんだから、お前が一番悪いんだ!」

Sの母(沈黙)

S「都合が悪くなるといつもそうやって黙る」

CO「お母さんもできたら一緒に謝ってください」

Sの母(沈黙)「どうしていいか躊躇してしまいます」

CO「心から謝りたいっていう気持ちにはなれないんですね」

Sの母「っていうか、今のSとAさんのやりとりを見てて、心底そういう気持ちになれないといかんなと思ったからです」

CO「心底?」

Sの母「はい。でも、今振り返ってみると、確かに私はこの子に建前ばかっり並べていたような気がします。自分の気持ちや感情を素直に言えませんでした」

CO「素直に言えなかったんですね」

Sの母「っていうか、間違ったことを言って、暴力振るわれたり、ものに当たり散らされたりするのが恐かったんです。いつもどう答えたらいいか考えてました。でも、それがかえって腫れ物に触るような感じになり、余計にSを苦しめていたんですね」

S「そうなんだよ。今わかったか」

Sの母「今ようやく気がつきました。もっと自分の気持ちや感情をこの子に素直に出していければいいんだって。いつも周りを気にしてきた私がいました。もっと自分の本音を出していいんですね」

CO「ああ、今日はとてもいい話ができました。私も心の洗濯ができたような気がします。今日はどうもありがとうございました」

この日はこんなふうにして和解に至った。


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