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メンタルヘルス通信

2015年11月2日

52号 「新うつとは?その2」

<新うつとは? その2>

新しいうつ、つまり現代うつはパーソナリティ(性格)の偏りに起因するといわれている。具体的には境界性うつ、自己愛・演技性うつ、回避性・依存性のうつなどである。今回は、回避性・依存性うつをとり上げたい。

この型のうつは、回避性や依存性の性格傾向が強いため、対人関係で自己表現が苦手。また親密な関係を作ることに遠慮がちになる。

特に新しい人間関係の状況では制止が起こり、ブレーキがかかる。本当は親密な関係を求めているのに、他者や周りに受け入れてもらえないのではないかという不安が生じ、対人関係を避けてしまう。

とりわけ、批判されたり拒絶されたりすることに恐怖心を抱き、周りの目や評価を気にする。自分が好かれているとか、受け入れられているといった確信が持てない限り、決して相手とは接触を持たない。根底には傷つきやすくナーバスな性格傾向がある。

また前述したように、周りの目や評価を気にするあまり、自分ひとりでは物事を決めることが困難になり、他者に依存する。要は、自信がない。そのため極端に「他者報酬型」の生き方をしてしまう。その結果、行き詰まり感を持ち、自分の性格傾向や生き方を嫌悪したり否定したりする。

こうしてうつ状態を生じる。そのきっかけは成績の低下だったり、いじめられ体験だったり、職場でのミスやエラー、クレームや対人関係のトラブルだったりする。そういう出来事に端を発し、自分を情けなく思ったり自責の念を持ったりする。しかし、そのような性格形成や生き方の裏には、それなりの物語がある。

<事例>自分をつくってきたMさん
Mさん(女性、42才、既婚、子供2人)は、幼少の頃から生活に困窮していた。それは、父親が事業に手を出しては失敗し、借金を作っていたからである。そのため、病弱だった母親が一生懸命働いてMさんを育ててくれた。

母親の苦労がよくわかっていたので、Mさんは自分の欲求や我儘を通すことはなかった。むしろ、我慢することが得意だった。親を困らせたくないという気持ちや、親の困った顔を見たくなかったからである。正月に親戚の人からお年玉をもらうにしても、いつも親の顔色を窺った。もらってしまうと母親がそのお返しをしなければならないことを子供ながらに知っていたからである。

また、Mさんは小学校低学年からクラスの子によくいじめられたが、そのことを母親には言えなかった。病弱な母親にさらに心配をかけることになるからである。だから「何かあったの?」と尋ねられても「別に・・・」と答えた。

また、Mさんはクラスの子からいじめを受けても自己主張したり、先生に言うことは一切しなかった。悲しくても怒りを覚えても笑ってごまかした。泣いたり、やり返したりすると余計にいじめられることを知っていたからである。

Mさんは子供時代をこんな風に過ごしたが、その頃から対人関係に自信がないことに気づいていた。「自分はかわいくないからいじめられる。貧乏だからいじめられる。」そう思うと自分なんかいない方がいいとさえ言いきかせた。それでも現実生活のことがあり、努力を惜しむことはしなかった。

周りから結婚もすすめられ、2児の母親になった。でもMさんは何か不満を感じ自分らしさが欠如しているように思えた。

「私の人生これでいいの?」いつも逡巡した。

そんなある日、職場で大きなミスをしてしまい、Mさんは顧客や会社に多大な迷惑をかけてしまった。もちろん、職場では持ち前のイイコで通してきたMさんだが、職場の先輩から“あの人、いない方がまだまし”と聞こえよがしに言われてしまった。

それ以来、Mさんは「今までの努力は何だったの?この42年間は何だったの?」と思い、虚しさを覚えた。

その頃から「疑心暗鬼」を生じ、思いこみや決めつける毎日。周りに対しても被害者意識を持つようになり、自分を情けなく思ったり、家族を責めたりもした。

精神科のクリニックを訪れ、医師に毎日落ち込んでしまう旨を伝えると「うつ病」の診断名がついた。その日からMさんの自分さがしの旅が始まった。それは自分のパーソナリティを認め、これまでの生き方を許し、ほんとうの自分を少しづつ実現する旅である。そしてその変容の旅は今も終わっていない。


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